初恋エモ
☆
クノさんを知ったのは、中3の秋のことだった。
友達のお兄さんが隣町のライブハウスに出ることになり、友達が音楽好きな私を連れて行ってくれた。
その日は高校生バンドがたくさん出るイベントだった。
上手いバンドから緊張しているバンドまで、みんなキラキラしていた。
フロアにいるお客さんもバンドメンバーの友達が多いのか、みんなキャーキャー騒いでいて、お祭りみたいな雰囲気。
私も友達と一緒に手拍子をしながらライブを楽しんでいた。
その中で、彼は異質な存在だった。
クノくーん! ミハラくーん! 等と友達らしき女子たちがステージに向かってメンバーの名前を呼んでいる。
しかし、クノと呼ばれていた彼は、笑みを浮かべていたかと思えば、急に挑発的な目線をフロアに向けた。
一瞬、目が合ったような気がした。体がぞくっと震えた。
空間をつんざくような激しいギターを鳴らし、彼はマイクへ近づく。
「……っ」
歌声が発された時、なぜか涙が出そうになった。
優しげな低音から、かすれ気味の高音へ。
演奏に埋もれがちな他バンドのボーカルとは違っていて、直接心に突き刺さってくるような歌声。
声の質の良さもあるとは思う。
でも、それだけじゃない。時に苦しくて、時に温かい。
初めてだった。
心をつかまれて、感情を揺さぶられるような。そんな感覚になったのは。
初々しさを感じるベースやドラムを気にも留めず、手元では鋭いギター音を鳴らし続ける。
頭を振り、全身で音に乗っているものの、ギターの演奏も安定してて、抜群に上手かった。
有名バンドのコピーだったのに、原曲を丸ごと飲みこみ彼自身の曲になっているように思えるほど。
まわりの女子たちはキャーキャー楽しそうにライブを見ていたけれど、私は手拍子なんか忘れて彼にくぎ付けになっていた。
ライブが終わった瞬間、全身が脱力感に包まれた。
エネルギーが吸い取られたような感じ。でも、その感覚が不思議と気持ちが良かった。
友達のお兄さんいわく、U北高校のバンドとのこと。
(ちなみに友達のお兄さんは、バンドをやってもモテなかったという理由で、もうバンドはやっていないという)