初恋エモ
スクリーミンズが東京と名古屋へ遠征ライブに行くことになったため、しばらく透明ガールのスタジオ練習は休み。
真緒は冬休みになり、おばあちゃんの家で預かってもらっているため、私はクノさんの家で練習をしたり、新しい曲のベースを考えたり。
もっとライブをやるための準備にはげんでいた。
「そういえば、あの三拍子の曲って、歌詞できたんですか?」
クノさんがその曲を弾き始めたため、あえて聞いてみる。
すると、「んー? まー」という煮え切らない返事がきた。
「やっぱりラブソングがいいですよ!」と言っても、「いーから練習しとけよ」と逃げられる。
他の新曲には歌詞がついているのに。
その曲だけ進んでいないみたい。
ライブでやったら人気出そうなんだけどな。
私はひそかに思っていた。
クノさん自身は自覚ないみたいだけど、音楽に夢中になっているせいで翠さんを苦しめている状態。
だから、翠さんへの想いを歌にすればいいんじゃないかって。
そうすれば、彼女もきっと喜ぶはず。
でも、あえて私が提案することじゃない気もする。
他人の恋愛に口出しできる立場じゃないし。
もどかしい気持ちになりながら、ベースを置きコートを羽織った。
「もう帰んの?」
「はい。今日は家に母がいるので」
まだ時間は18時。
母に怪しまれないようたまには早く帰らないと。
帰り際、何気なく「せっかくなので翠さん呼べばいいじゃないですか」と伝えると、
「なんで?」とクノさんは首を傾げた。
どうやら彼は意味が分かっていない様子。