蛍火に揺れる
「えっと……江浪君………じゃぁ……」
私はすたこら逃げようとするが、ノリ君は私の肩をがっちりと掴む。
「伊藤さん、告白の返事まだですよ?」
「あの……江浪君、本気?」
「本気ですよ。僕、入社当時から伊藤さんのことが好きなんです」
いやちょっと待て。入社当時から決して良いと思うような態度を取っていない筈だ。
「ちなみに…なんで?どこが?」
「最初は一目惚れでした。そこから仕事っぷりを見て、自分にも他人にも厳しい姿勢とか……納得行くまで妥協しない姿勢とか、懸命に仕事を頑張っている姿を見て、どんどん惹かれて行ったんです」
まっすぐに笑わずに、真剣に言うノリ君。
詐欺ではないんだ…と思うと同時に……
(何?江浪君が伊藤さんに告白してる?)
(え…あの口煩い小型犬に?)
(江浪さん、ひょっとして年上に弄ばれていた?)
周りにざわざわと、野次馬が集まりはじめた。ただでさえ定時過ぎの一番人が多いロビー。
これは……ヤバイ。