蛍火に揺れる
そう返事をすると、石見君は笑って「はい!」と。
「これで安心してくれた?石見君」とノリ君が聞くと、笑顔で「はい」と頷いている。
初々しい笑顔が眩しい。
「じゃあ僕は安心したんで行きますね!伊藤さん、産まれたらマーケティング部にも連絡ください!」
そしてペコリとお辞儀をする石見君。
ノリ君は「何かあったら相談してね」と言って手を振る。
私も笑顔で手を振って見送った。
彼がホームへの階段を上がり始めたところで、私たちも駅に背を向けて歩き始める。
まだまだ暑い日が続いているが、夜風がひんやりと心地良い。
「それで一緒にごはん食べてた後輩って石見君なの?」
正直な話、めちゃめちゃ意外と言えば以外な組み合わせで…会社で遭遇したとしても彼は私服だったので、何だか不自然な気がする、ような?
「いやーこれにはねー、深い訳が」
ニヤニヤと何だか黒い笑顔のノリ君。
これは…何か只事ではなかった『何か』があったな?
早く言えとむくれた視線を向けてみても、ノリ君は意地悪くニヤニヤするだけだ。
「じゃあせっかくだし、コーヒーでも飲んで帰る?」
そう言ってノリ君が指差す方向には、コーヒーのチェーン店。
久々に…それも夜に二人でお茶をするなんて付き合う前以来かも知れない。
私は「いいね」と言って頷くと、二人で吸い込まれるように中に入っていった。