蛍火に揺れる
ここは駅前の商店街が立ち並ぶエリアで、騒がしい人の群れとネオンの光が入り交じる。
普段使う道は住宅街の中なので、こんなネオンに照らされた道を歩くのは久しぶりかも知れない
そしてそんな道をこうしてノリ君と歩いているとー付き合う前のことを思い出す。
「……何?沙絵ちゃん」
思い出して笑っていると、さすがに怪しい人状態になってしまっているらしい。怪しい視線が私に向けられている。
「あのね、昔を思い出してた」
「昔?」
「ほら付き合う前さ、ずーっとノリ君は会話を途切れさせないように、いろんなことを話してくれたよね」
今思えば…だけど。付き合う前のノリ君は、すごくお喋りだった気がしている。
ずっと彼は絶え間なく話題を振ってくれて、私は沈黙が流れて気まずい思いをすることはなかった。
「うんだって…楽しいって思ってもらおうと必死だったよ。つまんなかったら帰っちゃうだろうし、なるべく一緒に居る時間を引き伸ばしたかったんだ」
今だからわかる、彼のあの時の必死さ。
余裕そうに見えていたけど、頑張っていたんだろうな。
そう思うと、余計に愛おしさが込み上げてくる。