蛍火に揺れる


「いや……だから、まだ陣痛も来てないし、来なくていいって」

通話可能エリアで連絡を試みると、もうすぐ行くと今にも来てしまいそうな勢いだった。
今来られてしまっても……まだ子宮口は二センチ程で張りも強くない。
今はただただ陣痛の波が来るのを待つという時間なのだ。

『え、でもでも…』

「あ゛ー!!もう今来ても産まれるのは明日!!今日中にこの先の仕事終わらせて来てから来て!!」

私は半ばキレ気味で電話を切る。
ふと顔を上げると看護師さん、入院患者の人たち数名の視線が向いているのがわかる。私は乾いた笑いを浮かべるしかない……。正直、色んな噂が回りそうで怖い。

でも今ノリ君に来られても…正直なにもすることはない。それだったら向こう数日の仕事を終わらせてくれた方が何倍もいい。
どうしてわからないかなー、なんて。

私はペタペタと廊下を歩いて、自分の病室まで。子宮口が開くまで病室で待機なのだ。

ズキズキと時折くる痛み、それは陣痛と呼ぶには微妙で…まだまだ生理痛の重たい時にも届かない痛さ。
痛いのが長引くのは嫌だな、早く本格的な陣痛が来ますように。なんてそんなことを思いながら、掃除した分の体力を取り戻すためにベッドに横になった。
< 133 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop