蛍火に揺れる
一回家に帰ってもらってもいいけれど、さっきから状況をいくら尋ねても返事がない。
彼自身に何かあったのだろうか、そんな心配もし始めていた頃だった。


「沙絵ちゃん?!大丈夫?!」

不意に病室の扉がバンと開き、ノリ君が現れた。
ずぶ濡れのスーツ姿で。

「ノリ君…あの、服すっごく濡れてるんだけど」

「ああ、一時間歩いてきたからやっぱり濡れちゃったね」

「一時間?!歩いたの?!」

「うん電車だいぶ詰まってて、そもそも三駅進むのに四十五分とかかかっちゃったし、歩いた方が早い」

「いや、それは…」
だいぶ疲れただろうし、一旦家に帰って休みなさい。
そう言おうとした瞬間だった。


「いっったああ……」

あまりの痛さに、私は踞る。
陣痛の波が来たのだ。

「大丈夫?!」

ノリ君に返事はできず、ズンズンと迫る腰付近を押してなんとか凌ごうとする。
それを察してか、ノリ君も私の腰をグイグイと押す。
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