蛍火に揺れる

ーそこからはあっと言う間だった。

「八センチですね。分娩室に行きましょう!」

すぐさま行われる内診と、分娩室への移動。
何とか這いながら、時に痛みに立ち止まりながらもようやく分娩室にたどり着く。


そして分娩台に乗った瞬間ーバチンと大きな音と共に、何かが股を流れていく。「破水しました」とのことなのでこれが本格的な破水。


「準備するので旦那さんは一旦外へ」

そう促されてノリ君は出ていったが…ずっと居てくれたお陰か、居なくなると心細くなる。しかしそう思ったのは一瞬だけで、すぐに陣痛の波が来て痛みに書き消されてしまった。


「江浪さん呼吸!赤ちゃん苦しくなるから止めないで!」

とは言われてももう無理です無理ですと言葉
にもならない。
これがいきみ逃しか。


痛みが引いていっても、すぐにまた波がくるのがわかる。ずんずんと迫ってくる感覚がどんどん短くなってくる。


「はい大きく息吐いて!」

何とか指示通りに息を吐こうとするが、うまく呼吸ができずに苦しい。意識が混濁としていく。


「沙絵ちゃん、頑張って!」

その声で私は正気を取り戻す。
ふと横を見ると、ノリ君だ。
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