蛍火に揺れる
彼は私の手を握って、何度も何度も「頑張れ」と繰り返す。
なんだかその手から力が伝わってくるようで…気力を振り絞り、何とか息を吐き続けた。


「江浪さん!次の陣痛でいきみましょう!」

ようやくいきみ逃しの地獄からの解放で、一番迫ってくる時に呼吸を合わせて力一杯いきむ。
痛みはどこかに消えていき、どんどんとお腹の中が降りていく感覚がわかる。


そのまま波に合わせていきむこと数十分。
思いっきり力を入れた瞬間ードゥルン、と中で塊が落ちる感覚があった。


「赤ちゃん頭出ましたよ。力抜いて!」

言われるがまま力を抜いて、小刻みに呼吸を繰り返す。
そしてついにーさっきとは比べ物にならないぐらいの、大きな塊が出る感覚がした。



助産師の人が持ち上げた瞬間「オギャア」と大きな声を出して泣き始める。
その様子を見ると安心感と共に……自然と涙が出ていた。


ようやく……ようやく、産まれたのだ。


「沙絵ちゃん、頑張ったね」

ずっと隣にいてくれているノリ君。
彼の事を考える余裕なんて微塵も無かったけれど…ずっと手を握ってくれていた。
陣痛の合間には、私の汗を拭いて水を差し出してくれていた。


「ありがとう」そう伝えるが、黙って首を横に振った。
「それは僕の台詞だよ」と言って。
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