蛍火に揺れる
*****
そしていよいよ、退院の日。
「江浪さんー、検査終了です。帰る準備して大丈夫ですよ」
コトコトと、あの新生児特有のベッドが運ばれてくる。その中にはー目を閉じて寝ている、五日前に産まれたばかりの子。
「蛍ちゃんー。お家に帰りましょうね」
私はゆっくりと抱き上げて、準備してあった肌着を着せる。まだ三キロと少しの、首も座らない小さな小さな子供。
まだ肌着も随分とぶかぶかで、着せている間にも壊してしまいそうな程、か弱い存在。
「よし、可愛い」
肌着を着せて、モコモコとしたロンパースを着せると…まるでぬいぐるみみたいな可愛さ。
みんな着せているわけがよくわかる。
私は彼女を抱っこして、ベッドに腰かけた。
改めてこの産まれての五日間は、本当にめまぐるしい日々だったな、と思いながら。
おむつがえに授乳、沐浴も、全てが初めての経験。
全てが手探り状態で正直な話、未だに沐浴が怖かったりもする。
因みにハルさん曰く『沐浴なんか沈んで溺れさせなかったら問題ない』そうだが……。彼女の一番のアドバイスが『最終日の夜は絶対に預けなさい!』とのことで、それには有り難く従わされていただいた。
授乳は意外と順調で、三日目からはミルクを足さなくてもいいぐらいに母乳が出てくれるようになった。
だけどそれと引き換えに、岩のように固くなった胸に切れて痛みが果てしない乳首……。
二、三時間おきの授乳では、傷が回復する時間なんてものはない。