蛍火に揺れる
***後日譚***
三月に入り、寒さも和らいできた頃。
私はとある料理屋に居た。
懐石料理が中心のお店で、豪華絢爛ではないが落ち着いたシックな雰囲気の和の個室。
しかも掘炬燵だから正座をしなくてもいいので、思いっきり寛げそうだ。
「あー可愛い!赤ちゃんってこんな可愛かったっけ?!」
そう言って蛍を抱っこしているのは、ハルさんだ。
よそ行きのロンパース ーレースの襟に胸元に大きなリボンの付いたピンク色のもの を着ている蛍を、ニコニコしながら抱き上げている。
蛍の頭には、少ない髪の毛と共に作ったヘアバンドも。
「でも、本当に大きくなるの早いよね……そろそろ産まれてからプラス二キロだよ……」
「あーうん、何か最初の方は気付いたらおっきくなってたわ」
ハルさんは馴れた手付きで、蛍を抱っこしてゆさゆさと揺らしている。
何か私に比べて…随分と抱っこが安定しているのは、さすが先輩と言ったとこだろうか。「うちの子に比べりゃ空気の重さ」らしい。
「菅原さんも抱っこしてみる?」
「できますかね……?」
「えっとね、まだ首が座ってないからココに頭を乗せてあげてね……」
ハルさんは丁寧に、隣に居た菅原さんに抱っこのやり方レクチャーをしている。
さすがに彼女の年齢だと、周りに子供を産んだ人はおろか結婚してる人もわずからしい。そりゃそうか。