蛍火に揺れる
「じゃあ、しばらく…仕事終わりにでも、一緒に出かけませんか?一緒に居る時間をください」

「分かった」

さっきと同じように、小さく呟く。

その時の彼の表情はーはにかみながらも、今までに見たことが無いぐらい眩しい笑顔。
徐々に私の心が波を打ち始め、ざわざわと落ち着かなくなっていくのを感じていた。



そしてその日の帰り、居酒屋を出ると-雪がちらついていた。
肉眼でははっきりとは分からなかったが、街頭にはらはらと微かな雪が照らされていた。

「伊藤さん、マフラーは?」

「いや、持ってきてない」

「じゃあ僕の使ってください」

いやいやと断る前に、ノリ君は私の首にマフラーを巻く。
抵抗しようにも…身長差がありすぎてどうすることもできない。いや、私が低いだけなのか。

「これで会う口実ができました」


そう言いながら、さっきと同じ表情で笑うノリ君。
私は首をぐるぐると巻かれながらーますます心が落ち着かなくなっていくのを、私は必死で押さえながら平静を装っていた。
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