蛍火に揺れる
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それから一ヶ月が過ぎようとしていた。
「伊藤ー!旦那が来てるぞ」
部長にニヤニヤしながら言われた先にいたのは、案の定ノリ君だ。
「旦那…じゃないです!!」
顔をぶんぶんと横に振る私を、からかうように笑う部長とノリ君。
「ははは、まだ気が早いですよ」
そうヘラヘラと笑うノリ君に
「仲人はやるから安心しな!」
そう言って肩を叩き返す部長。
とまぁこんな感じで、認めたくはなかったが私達は『付き合ってる』と各方面から認識されるまでになっていた。
とは言え、当時はまだ苗字で呼び合い…それこそ会うのは仕事終わりの数時間だけ。
腕を組む、手を繋ぐなどの肉体接触すら一切なし。
こんな中身だったので『付き合ってる』とは到底ほど遠い関係であったが、それなりに仲良くやっていた。
今まで彼のことは『年下の後輩』としてしか見ていなかったが…ちゃんと向き合ってみて、彼についてあまりにも知らないことが多すぎることに気付かされた。