蛍火に揺れる
まぁつまり…私は倒れてしまったらしい。


「……あれ?」


さっき見えていたものと視界が全く違うことに、何が起きたのか理解できずに固まる。

「伊藤さん、大丈夫ですか!?」

ノリ君はそんな私をしっかりと受け止めている。
ゆっくりと抱いた肩を起こして、私はその場に座らせられた。


「ええっと……あれ……?」

「伊藤さん、一瞬倒れたんですよ。ほっっん当に大丈夫ですか?!」

倒れた、ああそうか。
どうりでいつもよりも頭がぼーっとする。
何て言おうか……そんなことまで頭が回らずに、ただ私は座ったまま、ぼーっとノリ君を見つめていた。


「すいません、定時過ぎてるし伊藤さん送ってって良いですか?」

「あぁ、よろしく。伊藤、今日は帰って休め」

ぼーっとしている私を置いて、ノリ君はさっさと私の荷物をまとめている。
そしてさっさと私の手を引いて、下の階のロビーまで連れて行かれる。


今日は帰って休めってことは、今日は早く帰らなければいけないのか。
嫌だな帰りたくないな。

……ってその前に言ったノリ君の言葉。

「あ………」


いつもならすぐに反応して、首を横に振る言葉。
もはやそれが理解できない程ー私は疲れていたんだと思う。
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