蛍火に揺れる
(しまった……)
開けた瞬間、その勢いで下駄箱に置いてあった便箋が宙を高く舞う。
夥しい量の、便箋の束が。
「何……」
その一つをノリ君が手にしてしまい…みるみる顔色が変わっていくのが分かった。
私はノリ君の手からそれを奪い、必死に便箋をかき集めて玄関のドアを閉めようとする。
でもそれは間一髪間に合わず、強い力で押し返される。
「状況が変わりました。お邪魔します」
険しい顔を浮かべたノリ君は、そのまま玄関に入ってくる。
そして集めた便箋の束を取り上げて目を通す。
「なんですか?これ!」
彼が困惑するのも無理がない。
その手にしている便箋にはー薄気味悪いほどの、愛の言葉が並べられている。
どっかの小説からの引用か、歌詞からの引用かは分からないけど。
「……多分、元カレ」
私が最近疲弊している理由。
つまりそれはー元カレからの迷惑行為だったのだ。
*****
「これは完全に鴎外で…こっちは太宰か?
もうちょっと捻って欲しいところだけど…」
結局部屋に押し入ってきたノリ君は、ローテーブルに便箋を広げて一枚一枚に目を通している。
ちなみに私は、あまりの気持ち悪さに全てには目を通していない。
「それで…これは、元カレの仕業なんですか?」
「うん、多分……」