蛍火に揺れる
それでも…その全ては不発に終わっていて、もうどうしようもない状況に陥っていたのだ。


「それで引っ越そうにも…良い物件が無くて……」

もうさすがに三月の半ばに差し掛かった時期だ。
不動産屋をいくら回っても物件が見つからない。それに物件が見つかったとしても、引っ越し屋さんを手配できるかどうかは分からない。

仕事、警察、不動産屋。
最近その三つをぐるぐる回っている状況で―心労も疲労も、既にピークに達していた。


黙って聴いていたノリ君だったが…ボンと手紙を乱暴に机に叩きつけると、「じゃあこうしましょう」と啖呵を切る。

「伊藤さん、僕の家に来てください」

「江浪君の家……?」

「今すぐ避難はするべきです。僕ん家に来てください。
 荷物は全部は入らないんで…落ち着いた頃に、広い物件を探しませんか?」


避難できるのは…確かに有り難い。
でもその口ぶりからして………

「あの、それって二人で暮らすってことだよね?」

「なんで?ダメですか?」

「ダメも何も……」

普通に考えれば。付き合ってもない男女二人が暮らすというのはあり得ない話なのだと思うのだけれど。

「伊藤さん。これでも僕、怒ってるんですよ?」

「へ?」

次の瞬間、ノリ君はテーブルに向けていた体をぐるっと回転させると、私の方に向き合った。
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