蛍火に揺れる
「毎回ですね、沙絵さんに彼氏が出来る度に『何でこんな人と?!』って悔しかったんですよ。僕の方が絶ー対に幸せにするのにって」
そう言ったノリ君を、目を見開いて見つめる昌幸。
「沙絵………良かったな!こんないい彼氏ができて!」
次の瞬間―涙を流しながら、ノリ君の肩を抱き締める昌幸。うんうん頷くお父さん。
誰かこの酔っぱらい達を止めてくれ……。
すると「みんなそれぐらいにしといたら?」と助け船が登場。お母さんだ。
「沙絵も憲正さんも、裏の川に行ってきたら?今日は風もなくて穏やかだしね」
「あ、そうか。もう始まった?」
「うん、先週からボチボチと」
早くその場を離れたい私は、「行ってくる」とノリ君を引っ張って玄関まで連れていく。
そしてさっさと靴を履いて懐中電灯をノリ君に渡した。
「どこ行くの?」
ノリ君も靴を履いて立ち上がる。
「裏の川」
それだけ言って、私は懐中電灯片手に玄関を出る。真っ暗で街灯も何もない道を、懐中電灯の光りと自分の感覚を頼りに、突き進んでいく。
「本当に真っ暗だねー…何かなつかしい」
慣れている私とは違ってノリ君は少し警戒しながら歩いているようで、いつもより歩くスピードが大分遅い。