蛍火に揺れる
私が少しスピードを落とすと、ようやく追い付き私の手を握る。「ようやく二人になれた」と言いながら。
「………だいぶ盛り上がってたね」
「うん、昌幸君もお父さんもいい人で良かったよ」
正直ノリ君は、私が予想もしなかったスピードで仲良くなっている。この数時間で、数年前からの知り合いかと言われても違和感がないような馴染み様。
「ノリ君…でも、いいの?」
「何が?」
「…あんなことを言っちゃって」
ずっと引っ掛かっていた、ノリ君のあの発言。
『結婚の話を進めてもいいと思ってます』と、はっきりと両親の前での宣言。
でも私は…まだそんな将来について、この人は考えるべきではないんじゃないか。
これからどんどんと仕事も忙しくなって…いろんな人とも出会う。それこそ出世の為の縁談なんて選り取り見取りな状況になるかもしれない。
だから結婚という選択が、彼の将来を奪っている気がしているのだ。
それだったら…私は彼を手放さなければいけない。でも今すぐにその決断を出来るほど、私は手放す強さがない。彼の優しさにつけこんで、甘えて、ここまでずるずると来てしまったのだ。