蛍火に揺れる
そんな決して近い距離ではないのに不思議だなぁ、なんて思いながら二人を見つめていた。


「そういや大村、紹介しとく。俺の彼女の沙絵ちゃん。俺らの先輩」

「あぁ…はい、噂には聞いておりました」

噂って…何だろ?

「『江浪が全力で先輩口説いてるらしいけどホントか?』ってなぜか俺が攻撃に…」

「それは…ご迷惑をおかけしました」

どうやら私たちの噂は…名古屋にまで飛んでいたらしい。
思わず遠い目をする私を見て、彼は肩をすくませて笑っている。


いやぁこの笑顔は…世の女性の九十パーセントがドキっとする笑顔だな。笑顔一つで破壊力がデカい。


「でも予想以上に可愛いらしい方で…びっくりしました。年上と聞いてましたが、見た目は俺より年下に見えますね」

「何、大村?口説いてる?」

「さすがに同期の彼女を横取りなんてできるか」

ゴチンと一発拳骨をくらわせると、改めて私の方を向いてしげしげと頭を下げた。


「江浪と同期で、名古屋支社勤務の大村智也です。これからどうぞよろしくお願いします」

「いえいえこちらこそ」
私も彼に向かって、ぺこりとお辞儀。
さっきの拳骨食らわせた人には見えないほど、丁寧な挨拶だ。
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