蛍火に揺れる
「そういや大村、何で東京居るんだ?」
「あぁ……野暮用で帰省してた。ついでに映画ハシゴしてたらそろそろ時間が…」
「映画?」
「名古屋がなーミニシアター的なやつが少ないんだわ。おかげで月イチで大阪出るか、こっち戻るかの生活」
「へぇ……」
「さすがに話題作ぐらいやるかと思ってたけど、一ヶ月遅れとかそんな感じなんだよなー」
そう言われて、前に菅原さんが言ってたことを思い出した。
「そういや特に海外の映画で配給会社が小さいところだと、東京でしか上映してない映画も結構あるって菅原さん言ってたね」
「…菅原って?」
「あぁ、この人の部下なの」
「そ、新卒で入ってきた子。小柄で儚げで可愛いと経理部のオヤジ達のアイドル」
「…へぇ」
まぁハルさんが全方向からガードしているから本人無自覚でありますが。
「まぁ今度しょうか…ってそんな機会は来な…」
ノリ君が余計なことを言おうとしたところで、もう一度頭に拳骨が炸裂している。
「俺はぜーったいに這い上がってやるからな!」
そんな捨て台詞を吐いて去っていく大村君。
ノリ君が笑いながら手を振ると―口角をほんの少しだけ上げて、手を振りながら新幹線の改札の方向に消えて行った。