蛍火に揺れる
「本当はもっと早くに紹介したかったんだけど」
そうノリ君は前置きして、私に紹介できなかった訳を話した。


「ホントはさ、父はもっと奥地で仕事してて…ダナンに母が住んで、月に数回帰ってくる生活だったらしいんだ。
 でもそれが終わったみたいだから、ようやく紹介できる」

どうやら私を紹介できなかったのは、このすれ違い生活の為だったようだ。



さらに私が面食らったのは、彼の父の会社のこと。
うちの数倍の規模もある、ホテル経営や観光業をメインとした会社で……更に言うなら、その父は海外事業部の相当お偉いさんだと言うことも。
本来であれば定年の年齢になっているのだが、延長して顧問役という立場であるということも。

まぁ、正直何となく言いたくなかった気持ちはわかる。自分と比べられたらたまらない存在であろうし…あまり両親とは仲がいいという感じには見えないということもあるだろう。彼にとってあまり話したくない存在なのかな?なんてそんなことも思っていた。


空港の出口には、ボードを持った人達が沢山集まっている。ツアーやガイドの出迎えだ。
私達も迎えが来ている筈なので、ボードをチェックしながら迎えに来てくれた人を探す。

「あ、居たよノリ君」

奥の手摺にもたれ掛かれながら、ボードを掲げている人。『WELCOME, ENAMI NORIMASA』 の文字が書いてある。
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