蛍火に揺れる
いやだって……私はあなたに好かれるような心当たりは何ひとつ無いのですけれど。
そう具体的に説明しようと思っても、なんせこの周りの視線が怖い。
私は「じゃ、また今度」と言い放って、ハルさんを引っ張って食堂を後にする。
後ろを振り向かず、駆け抜けるようにしてその場を後にした。
「詐欺ってひどいと思うよ」
エレベーターでフロアに戻る最中、ハルさんがそう言った。
「だって……あんなの私を陥れようっていう罠にしか見えないんだけど」
彼氏と別れたばかりの私をからかってるに違いない。
「でもさ、多分江浪君本気だと思うよ?」
「何で?」
「だってよく私に沙絵のこと聞いてくるよ。何が好きなのかとか……」
「話題の一つじゃないの?」
「いや、結構彼氏の話も聞かれたよ。歴代の彼氏はどうだったとか」
じゃあ彼は……本気だった?いやいや。
「そんなの……言われても、困る」
彼は二年近く、一緒に働いてきた大切な大切な仲間だった。
でも一方で、私は彼のことがすごく憎たらしく感じていてーどうしても、どうしても、心の奥底では好きになれなかったのだ。