蛍火に揺れる
すると部屋に「ピンポーン」というチャイムの音が響く。
どうやら誰かが来たらしい。


立ち上がる私を阻止して、「行ってくる」とそそくさノリ君は玄関へ。
私はもう一度、ソファーに深く腰かけた。

初めて聞いた、彼の仕事への思い。
それに……両親への思い。『恨んでもいた』なんて。


ずっと異国の地で暮らしていて……一人ぼっちの気分だったと言う。
かたや私はずっと同じ土地で育ち、大勢の仲間の中で育った。

いつもノリ君が私の帰省に着いてきてくれるのは、ひょっとしたらだけど…こういう場所に憧れがあったのかも?なんて。


「沙絵ちゃん、お待たせ」

声をかけられて振り向いた先―私は硬直し、言葉を失った。


だって彼の手には、薔薇の花束を抱えている。
両手で抱えきれないぐらいの、大きな…大きな花束を。

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