蛍火に揺れる
お互いの両親と、私の弟だけの小さな…小さな結婚式。
それが私の『一番幸せだった瞬間』そのものだったと思う。
「沙絵、私ね…一つ夢があるのよー」
その日の夕食、ガーデンテラスでの食事をしている時、そうお母さんが切り出した。
「沙絵が三十までに結婚するっていう夢は叶ったわ。まぁ少しオーバーしたかしら?」
「お母さん……なんかそれ酷くない?」
確かに私は誕生日に入籍をしたので…三十『まで』だと確かに少しオーバーしているのだが。
「本当はね…『六十までに孫が抱きたい』のよねぇー」
そう言うお母さんに、思わず吹き出す。
「ちょっと、今何歳だったっけ?」
「もうすぐ五十九歳になるわねー」
私は盛大にずっこける。
いや、もう一年ちょいじゃないですか……。
「伊藤さん、若いじゃないですか!私なんてもう六十四ですよ!」
「えーやだ!江浪さんったらー。江浪さんの方が見た目若いじゃないですかー!」
「いえいえ、もう六十を越えた辺りから、どんどんと衰えがねー……」
酒の勢いもあり、母親二人の会話は止まらないわで大変で。
思ったよりも両親同士も打ち解けて、ダナンの夜は更けていった。