蛍火に揺れる
「まぁ……『子供は授かり物』だけどね」
そう言って私は肩を竦ませると、ぼんやりと花火を追っている彼の横顔を見つめた。
ーその時だった。
私の脳裏にーはっきりと映像が浮かんだ。
彼が幼い子供を連れている映像が。
前に少しかがみながら、手を繋いで歩いて行く。その顔は優しさに満ち溢れていて……どこから見ても『良いパパ』であることがわかる表情。
あぁそうか、と私は気付いた。
私はこの人との子供が欲しいんだ、と。
はっきり見えた幸せな未来。
ーそこに私は、辿り着きたいんだ。
彼が振り向き微笑むと、体が熱を帯びていくのがわかる。
そして軽く触れるだけの、優しい…優しい口づけを重ねると、徐々に私の心が溶けていく。
ゆっくりと私は溶かされながら、彼に身を任せて腕の中にしがみついた。
(あっ……)
ゆっくりとベットに沈められた先、彼のかすかに見える顔の向こう。
真っ暗な大きな天窓に、微かに反射して…揺らめいている花火の小さな光の点。
それはーいつか二人で見た、あの日の蛍に重なって見えた。