蛍火に揺れる
浮かない顔で準備している私とは対照的に、ノリ君はニヤニヤと浮かれた笑顔でシャツのボタンを止めている。
何だろう……この違和感。


「ノリ君……何かあった?」

「いやー実はね、沙絵ちゃんにも朗報だと思うんだけど」

「朗報?」

「うん。今日から大村が戻ってくるんだって。しかも課長に昇進」

大村……って誰だったっけ?と頭の中をひっくり返した瞬間ーあの品川駅でのイケメンを思い出した。


「あぁーあの大村君!」

ノリ君と同期で、名古屋勤務だった大村君。

あの日吐き捨てるように行った『ぜーったいに這い上がってやるからな!』という宣言通り、本社に這い上がって来たらしい。しかも課長職とは。
これは…相当頑張ったのではないか……?


「いやーこれは噂になるよなーふふふっ」

まぁノリ君も、私と結婚したことにより…色んな方面から色々と言われているわけで。
まぁでも大村君が帰ってくるなら、そっちにみんな行ってしまうだろうな…とは。


「あー楽しみだなぁー」

ノリ君はニヤニヤと黒い笑顔。
これは……あれか。弄ぶ準備は万端ってことか。

(大村君……頑張れ……)

私は心の片隅で、彼が平穏な生活が送れるようにと、ほんの少し…ほんの少しだけ祈っておいた。


ーそして大村君が本社に戻ってきた。
< 79 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop