蛍火に揺れる
そしてついに今日、マーケティング部の部長から、こう言われてしまった。
「産まれてくる赤ちゃんを一番大切に思うから…私は伊藤さんが仕事を続けることに、賛成はできない」
つまりのところー退職勧告と同じこと。
「江浪君なら伊藤さんの全てを任せられると思っているし…なんせ、私にも子供が居る。子供は一番の財産だ。だから、危険に晒すようなマネはして欲しくないんだよ」
あくまで私がお荷物ではなく、子供のことを第一に考えての言葉。
わかってはいる。
わかっては、いるんだ。
でも私は十年間、ひたすら仕事に打ち込んできた。
この会社で絶対に認めてもらう。そう信じて頑張ってきた。
ぐるぐると回る、仕事への思い。
私はその全てを押し込めるようにして、ただただベッドで目を閉じていた。
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ガチャっと玄関から音がして目が覚めた。
もう既に部屋は真っ暗。手元の携帯を確認すると、時刻はもう夜の七時半。
「沙絵ちゃん、起きてる?ただいま」
寝室のドアが開いて、ノリ君が顔を覗かせた。
私ものそのそ体だけをゆっくり起こす。
「うどん買ってきたけど、食べれそうかな? あと、洗濯溜まってるから回しちゃっていい?」