蛍火に揺れる
こんな状態で、仕事を続けるのが難しいことぐらい十分わかってはいる。


「でも仕事を辞めてしまったら、私に何が残るの?十年間ずっと努力して這い上がって…それだけしかしてこなかったから、何もなかったことになっちゃうじゃない!」

私が頑張ってきた、この十年間。
落ちこぼれの中から這い上がって、努力した……『それだけ』の十年間。

もし仕事を辞めてしまったら、私に何が残るというのだろう。


彼はうんうんと何度も頷いて、そっと優しく手を握った。

「沙絵ちゃんが頑張り屋さんで、人一倍仕事に責任とプライドを持っているのは、僕が一番知ってる。
 僕が好きになった人って、そういう人だから」

だったら…と言いかけたけれど、握った手をそっと私のお腹に置いて、優しく見つめる。


「無理に仕事を続けたとして、この子が流れてしまっても…絶対に後悔しないなら、僕は止めないよ」

そう言われた瞬間ー私は目の前が真っ暗になる。
この子が居なくなるなんて…そんな事は絶対に考えられない。涙を振り払うように、私は頭をブルブルと震わせた。
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