水曜日は図書室で
オープニング
「それでさぁ、バスケ部の大会見にいったわけよ。そしたら他校の女子も結構来ててー」
「えー、マジでー? 田中先輩目当て?」
「そうみたい、ウチの学校のチームばっか見てたから」
 昼休み、きゃっきゃと騒いでいるのはクラスの中心的存在の女子グループ。
 社交的で明るくて、見た目も華やかな女の子たち。
 不良ではないけれど、たまに授業をサボったり、遅刻早退も「すみませーん」なんてあっけらかんと済ませてしまうような子たちだ。
 昼休みのお昼ご飯の終わったあとも、教室の中心にくっつけた机でおしゃべりに興じている。

 困ったなぁ。

 それを見ながら内心で言ったのは、その子たちに比べればずいぶん地味な女の子だった。
 長めの黒髪に眼鏡をかけた、小柄な子。
 いじめられているわけではないけれど、少なくともあの輪には入れてもらえないくらいには、地味で大人しくて内気、といえた。
 それはともかく、この地味な女の子・美久(みく)が困っている原因としては、単純にそこに自分の席があるからである。
 使われている机のすぐ横が美久の席。そろそろ昼休みが終わるから、机に着いて支度をしたいのだけど。
 今、あそこへ入っていったら割り込む、というか、邪魔をしてしまうことになるかもしれない。
 うっとおしそうな視線を向けられること。大人しい美久には大変恐ろしかった。
 でもこうしているわけには。
 そのとき、がららっとうしろのほうで音がした。教室のドアが開けられる音だ。
 割合大きな音だったので、教室の中にいた子たちの何人かはそちらを見た。
「あかり、いる?」
 ドアを開けた誰かはそう言って女子の名前を呼んだ。
 声と言葉からするに、男子生徒でほかのクラスの子らしい。つられるようにちょっとだけ視線をそっちにやったけれど、美久は知らないひとだった。
「快(かい)じゃーん! どうしたの? なんか用?」
 しかし実はこれ、美久にとっては幸運だったのである。お行儀悪く机に腰かけておしゃべりをしていた女子。クラスの中心である、茶色の髪を巻いて背中に流した派手なその子・桐生(きりゅう) あかりが呼ばれたのだから。
 あかりは顔を明るくして、ぱっと席を立った。呼ばれたほうへ向かう。
 どうやら知り合いかなにからしい。彼氏とかなのかもしれないけれど、そのへんは美久には関係なかった。
 中心でしゃべっていたあかりが場を離れたところで、ほかの女の子たちもちらほらと散っていったのだから。
 なんという幸運。
 美久は心底ほっとした。そして、目立たないようにそろそろと席へ向かう。
 もうおしゃべりタイムは終わったと認識されていたのだろう、誰も美久を見とがめたりしなかった。
 席に着いて、休み時間に使っていたスマホをしまって、代わりに教科書を取り出して……。
 次の時間は現代文。美久にとっては得意な教科なので楽しみだった。
 本が好きなのだ。特に小説が好き。
 休み時間も図書室へ行っていた。借りていた本を返しに行ったのだ。今日はちょうどいい本が見つからなかったので、なにか借りてくることはなかったけれど。
 でもまた行けばいいだろう。貸し出し中のものが返ってきたらまたラインナップも変わるのだから。
「おっと、そろそろはじまっちまうな。じゃ、さんきゅ、あかり」
 自分の支度に集中していた美久の耳にもかすかに届いた。教室の入り口、あかりと、訪ねてきていた男子のやり取り。
「ううん。ところで快、こないだの試合、来てた? バスケ部の模擬試合」
「あ……、ああ……ちょっと都合が悪くて……」
「……そう」
 話の内容も興味がなかった。個人的なことだろう。
 それより美久は、今日授業で取り上げられるはずのところのほうが気になっていた。
 そのうち訪ねてきていた男子は帰ったらしい。あかりが教室の中へ戻ってきて、ほかの子に「早く席つかないと先生来るよ」と言われている。
 その数分後に始業のチャイムが鳴って、先生が入ってきた。
 現代文の先生は、優しいおじさん先生だ。いつもにこにこと楽しい話をしてくれるので、人気があった。
「さ、でははじめようか」
 先生が教壇に立って、クラスのみんなも立って、授業はじまりの挨拶。
「よろしくお願いします!」
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