水曜日は図書室で
「急がないと!」
 あたふたと、しかし手は抜かない様子で留依は着替えたり片付けたりをしている。
 脱いだ制服を畳むけれど、それもぐちゃぐちゃなんてことはなく、きちんと畳まれていた。
 それをロッカーに入れて、一応ついている鍵をかけて、美久を振り返った。
「よし! 行こ!」
 ジャージの上は、着いてから着ればいいという気持ちらしく、腕に引っかけられている。もう十月も終わりそうでずいぶん寒いのに、だ。
「う、うん」
 なんとなく留依を待ってしまっていた。いや、この状況なら「お先にー」なんて言うはずがないけれど。
 でもなんとなく、思ってしまった。
 自分はずいぶん子供っぽかったのではないか、と。
 高校生として遅れているのではないか、と。
 下着ひとつでそんなふうに思うとは思わなかった。
 でもそれはひとつの要素でしかなく、オシャレな留依からの影響、ということになるのだろう。
「え、えっとー……体育館は……あっちだよね!」
「あ……」
 留依は更衣室を出て、次の廊下まで来て、ちょっと迷った様子で右を指差した。
 でもちょっと違う。
「あ、あの……体育館はあっち、だけど……」
 美久が違う、と言いたいのはわかっただろう。留依は「ん?」とこちらを見た。
「あ、あのね、今日は合同体育だから……大きい第二体育館のほうを使うの……」
 美久の説明はつたなかっただろうに、留依は「そうなの!」と顔を輝かせた。
「どっち?」
 なぜかそわそわしつつ、美久は廊下を指差した。留依が指差したのとは別の方向。
「え、えっとね、廊下をまっすぐ行って、左に曲がって……」
「そっか! ありがと! じゃ、急いでいこ! 美久が案内してくれる?」
 留依はぱっと顔を明るくする。
「う、うん、もちろん」
 もちろん肯定して、二人で廊下をまっすぐ歩いた。少し急ぎ足で。
「いやー、美久がいてくれてよかったなぁ。また場所がわからなくて遅れちゃうところだったよ」
 美久の説明はつたなかったのに、留依はまるで気にした様子もなく、嬉しそう。
「すぐ覚えるよ」
 だからだろうか。今度の言葉は、すっと出てきたのは。
 留依はそれに気付いたのか気付かなかったのか。「そうだよね!」と明るく言ってくれた。


 小学校の頃と同じような空気が戻ってきた、と思う。
 けれど、小学生のときとは明らかに違う。
 大人に近づいていっているのだし、それは服やオシャレだけでなく、体も心もだ。
 でも、私は。
 美久はちょっと自分をかえりみてしまった。
 このままでいいのかな。
 このままじゃ、子供のまんまじゃないのかな。
 そう思ってしまったこと。「このままでいい」と思い続けてこうしてきた美久が自分について考えるきっかけになったこと。
 確かにきっかけ、だったのだ。
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