水曜日は図書室で
チョコも半分ほどなくなった。快は「残りは家でじっくりもらうな」と、ふたをした。確かに一度に食べるにはたくさんだったから。
今ならいいかな。
美久は思って、心の中でごくっとつばを飲んだ。
そうしてからバッグにもう一度手を入れる。
「快くん、あの」
チョコの箱を軽く包みなおして自分のバッグに入れたところである快に、声をかける。快がなにげない様子でこちらを見た。
その瞳を見たことで、急にどきどきとしてきてしまった。
だけど、これはとても大切なこと。
美久はもう一度、心の中でぐっと力を入れて。
「これ、もらってくれる、かな」
あるものを差し出した。
それは封筒だった。薄いピンク色で、小さな赤いリボンをつけている。
こんなラッピングのようなことをするほど価値があるものなのか、美久に自信があるかといったら、あまりなかった。
少なくとも、チョコにラッピングしたときに比べたら、ずいぶん少ない。
けれどむきだしで渡すような軽いものではないから。
だから、ちょっとだけ飾ってみた。
「なんだ?」
快は不思議そうな顔をした。けれど手を出して受け取ってくれる。
「あの、……読んでくれるって、快くんに言ってもらった……」
「え! あの小説か!?」
美久の説明に、快の目が丸くなる。声も高くなった。
「そ、そんな、たいしたものじゃないけど……」
「いや、そんなことないだろ! えっ、すげぇ楽しみにしてたんだよ。見ていいか?」
目の前で広げられるのは恥ずかしかったけれど、見て欲しい気持ちも確かにあって。たっぷりすぎるくらいあって。
美久は「どうぞ」と言った。
快は留めていたテープをていねいにはがして封筒を開ける。中からそっと、紙の束を取り出した。
いや、これは紙の束ではない。
「えっ。……本じゃないか、これ」
手にした快もすぐに気付いたらしい。もう一度目を丸くする。
「え、ううん! ただ、まとめて留めただけだよ!」
自分ではそう言ってしまったけれど、思っていた。
『本』の形にしようと。
もちろん、お店で売っているようなものは作れない。どうやって作るのかも知らない。
だからスマホで調べて、ミニ冊子といえるようなものの作り方を知って、それにしようと思って。
中身を家のiPadで苦戦しつつ整えて、コンビニのコピー機で刷った。それを折って、何枚か重ねて、真ん中をホッチキスで、ぱちんと留めただけだ。
だから本当に立派なものではない。
けれど、……頑張って作ったのは確かだから。
未熟でも『本』にしたいと思ったのも確かだから。
「こんなすごいもの……もらっていいのか……?」
快は手の中のそれを、しみじみと見つめた。その声も言葉も、持ってくれる優しい手も、すべて快がこれを大切なものとして扱ってくれているのが伝わってくる。
「快くんに手にしてほしくて、作ったんだよ」
だから、気持ちはするっと出てきた。
快の顔もほころぶ。
「ありがとう。すっげぇ嬉しい」
それから快はぱらぱらと冊子をめくってくれた。「ちょっと長めだし、それに目の前で書いたものを読まれるのは恥ずかしいから……」と美久は言い、快は「じゃあじっくり読むのは、家で、にしよう」と言ってくれた。それで簡単にめくるだけにしてくれたのだ。
「すごいな……こんな長くて、ちょっと見ただけでもすげぇおもしろそうだ」
「あ、ありがとう……」
書いたもの。こんな形でひとに見せるのは初めてだった。
見てくれるひとが快で、本当に良かったと思う。
見てもらえる自分のほうが幸せだと思ってしまう。
「そ、それでね」
美久が言いかけたとき、ちょうど快の手は最後のページにかかったときだった。
どきんと美久の心臓が高鳴る。
その最後のページに載せたものは、自分で書いたものではないのだ。
なにを載せたかというと……。
今ならいいかな。
美久は思って、心の中でごくっとつばを飲んだ。
そうしてからバッグにもう一度手を入れる。
「快くん、あの」
チョコの箱を軽く包みなおして自分のバッグに入れたところである快に、声をかける。快がなにげない様子でこちらを見た。
その瞳を見たことで、急にどきどきとしてきてしまった。
だけど、これはとても大切なこと。
美久はもう一度、心の中でぐっと力を入れて。
「これ、もらってくれる、かな」
あるものを差し出した。
それは封筒だった。薄いピンク色で、小さな赤いリボンをつけている。
こんなラッピングのようなことをするほど価値があるものなのか、美久に自信があるかといったら、あまりなかった。
少なくとも、チョコにラッピングしたときに比べたら、ずいぶん少ない。
けれどむきだしで渡すような軽いものではないから。
だから、ちょっとだけ飾ってみた。
「なんだ?」
快は不思議そうな顔をした。けれど手を出して受け取ってくれる。
「あの、……読んでくれるって、快くんに言ってもらった……」
「え! あの小説か!?」
美久の説明に、快の目が丸くなる。声も高くなった。
「そ、そんな、たいしたものじゃないけど……」
「いや、そんなことないだろ! えっ、すげぇ楽しみにしてたんだよ。見ていいか?」
目の前で広げられるのは恥ずかしかったけれど、見て欲しい気持ちも確かにあって。たっぷりすぎるくらいあって。
美久は「どうぞ」と言った。
快は留めていたテープをていねいにはがして封筒を開ける。中からそっと、紙の束を取り出した。
いや、これは紙の束ではない。
「えっ。……本じゃないか、これ」
手にした快もすぐに気付いたらしい。もう一度目を丸くする。
「え、ううん! ただ、まとめて留めただけだよ!」
自分ではそう言ってしまったけれど、思っていた。
『本』の形にしようと。
もちろん、お店で売っているようなものは作れない。どうやって作るのかも知らない。
だからスマホで調べて、ミニ冊子といえるようなものの作り方を知って、それにしようと思って。
中身を家のiPadで苦戦しつつ整えて、コンビニのコピー機で刷った。それを折って、何枚か重ねて、真ん中をホッチキスで、ぱちんと留めただけだ。
だから本当に立派なものではない。
けれど、……頑張って作ったのは確かだから。
未熟でも『本』にしたいと思ったのも確かだから。
「こんなすごいもの……もらっていいのか……?」
快は手の中のそれを、しみじみと見つめた。その声も言葉も、持ってくれる優しい手も、すべて快がこれを大切なものとして扱ってくれているのが伝わってくる。
「快くんに手にしてほしくて、作ったんだよ」
だから、気持ちはするっと出てきた。
快の顔もほころぶ。
「ありがとう。すっげぇ嬉しい」
それから快はぱらぱらと冊子をめくってくれた。「ちょっと長めだし、それに目の前で書いたものを読まれるのは恥ずかしいから……」と美久は言い、快は「じゃあじっくり読むのは、家で、にしよう」と言ってくれた。それで簡単にめくるだけにしてくれたのだ。
「すごいな……こんな長くて、ちょっと見ただけでもすげぇおもしろそうだ」
「あ、ありがとう……」
書いたもの。こんな形でひとに見せるのは初めてだった。
見てくれるひとが快で、本当に良かったと思う。
見てもらえる自分のほうが幸せだと思ってしまう。
「そ、それでね」
美久が言いかけたとき、ちょうど快の手は最後のページにかかったときだった。
どきんと美久の心臓が高鳴る。
その最後のページに載せたものは、自分で書いたものではないのだ。
なにを載せたかというと……。