水曜日は図書室で
春風と共に
「今日、大活躍だったじゃん」
 帰り道。今日はなんだかあたたかいような気がしていた。
 スポーツをして体があたたまったというのはあるだろうけれど。
 レクリエーションの日だったので、夕方になる前には学校が終わってしまった。よって、早めに帰れることになる。
 いつも通り快と待ち合わせて帰り道を歩きはじめながら、快がほめてくれた。
 美久はそれににこっと笑う。
「ありがとう!」
 快も同じように笑顔になる。
 今日はまっすぐ帰る予定ではなかった。せっかく時間があるのだ。ちょっと寄り道をしようということになっていた。
 ひと駅となりだと言われて、駅からいつもと違う方向の電車に乗る。
 ひと駅なのでほんの五分もしないで着いてしまう。
「こっちだ」
 快はこのへんのことも知っているようだ。美久に手を差し出してくれた。
 美久はその手を取る。
 どこかに連れて行ってくれるようだ。
 どこなのか、なにがあるのかはわからないけれど、きっと素敵なものがあるのだろう。
 思って、美久は手を引かれるままについていった。
 そして快が行きたかった場所と、その目的を知る。
「わぁ! もう咲いてるの!?」
 着いたのは河川敷。大きな川が流れていて、太い樹がたくさん植えてあった。
 そしてそこに広がっていたのは、薄いピンク色だった。
 まだ満開なはずがない。五分(ごぶ)咲きくらいでちらほらとしたものだ。
 でも五分咲きだって早すぎるだろう。だってまだ二月だ。
 春が近づいているとはいえ、どうして。
「『河津(かわづ)桜』っていうんだ。学校とかに植えてあるのはソメイヨシノだけど、それより一足早く咲くんだよ」
「そうなんだ。二月にもう桜が見られるなんて思わなかったなぁ」
 快の説明で納得して、また感心してしまった。
 桜のことなど自分は知らなかった、と改めて思う。
 自分が知らなくて快が知っていること。また、その逆も。
 たくさんあるだろう。
 それを共有して分け合っていけたら、どんなに素敵なことだろう。
 下に降りて、桜の咲く道を歩く。まだ半分ほどしか咲いていないのだから、ほとんど散ってこない。
 ただ、桜の花を見上げながら歩くだけだ。
 でも頭上にうつくしいピンク色があるというだけで、特別過ぎる光景で、場所であった。
「美久」
 ふいに、快が名前を呼んできた。美久はなにげなく振り返って、ちょっと目を丸くした。
 快は固い瞳をしていたのだから。
 あのときと同じ。
 決意のこもった、強さを持った瞳だ。
 すぐにわかった。
 快の中で変わったこと。そしてそれを伝えてくれるために、ここへ連れてきてくれたのだろうということ。
「バスケ部、辞めてきた」
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