水曜日は図書室で
 静かに言われたこと。
 それはおどろいてしまうような事実かもしれなかったのに、美久の心は落ちついていた。
 大切なことを言われる緊張はとくとくと胸を騒がせているけれど、心の中は静かだ。
「……そうなんだ」
 辞めてきた、とは言われた。
 けれどそれがマイナスの意味ではないのが伝わってくる。
「やりたいこと、見つけたんだ。だからそっちに集中したいと思う」
 そこから快が話してくれたこと。
 河川敷に立って、桜の下、流れていく川を見ながらだった。
「バスケのコーチングの勉強をしようと思うんだ」
 快はバスケ部を辞めた、と言った。
 けれど出てきたことはやはりバスケだった。
「やっぱりバスケが好きだから。プレイができないなら、違う形でたずさわりたいと思った。そこでコーチを目指すのはどうだろうと思ったんだ」
 それは快の計画。
 きっと高校でのことだけでなく、もっと先も見すえた計画だ。
「今まで通り、バスケ部でマネージャーをするのも悪くはないと思う。でも、あのままじゃ中途半端だった。俺の気持ちも、環境も。だからもう選手にしがみついてないで違う道に行く」
 きゅっと口を結んでから、快は言った。一番強く思っていることだろう。
「大学のスポーツ科学科で、コーチング科学を学びたいんだ」
 それは夢。
 今は、夢。
 でも目標なのだ。
 来年、三年生の一年をかけて、受験のための勉強をする。そして受かってみせる。
 そういう、目標。
「……快くんなら、できるよ」
 美久は言った。心からの言葉だった。
 おかしなことかもしれない、急に聞いたというのに。
 でも確信があった。
 快ならやってのけるだろう。
 ここまで強い決意を持っていれば。
 元々強いひとなのだ。決意が加わればきっと、なしとげてしまう。
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