水曜日は図書室で
「……ありがとう」
 ふっと、快の目元がゆるんだ。
 一歩踏み出す。美久に近づいてきた。
 そして手を伸ばされる。美久の手が、そっと包み込まれた。
「美久に出会ってから、いろいろ考えるようになったんだ。俺の現状とか、悩みとか、すべきこととか。なかなかわからなかったけど」
 きゅっと、大きな手で握られる。あたたかくて、ごつくて、しっかりここにいてくれる、快の手。
「美久の姿を見てて、思った。髪型を変えたり、コンタクトにしたりして、前を向いてくところとか。コンテストに向かって小説を書いてみるとか」
 そう言われるのは少しくすぐったい。
 快と初めて出会ったときの、まだ後ろ向きでクラかった自分を思い出してしまうから。
 でも快は見ていてくれたのだ。
 美久の頑張る姿を。前に進もうと努力している姿を。
 さらにそこから、自分も触発されたと言ってくれるのだ。
 それはどんなにすごいことだろう。
「そういう姿がすごくきらきらしていて、魅力的だった。だから好きになったんだ」
「……ほめすぎだよ」
 さすがに恥ずかしくなってしまう。認めてもらえるのは嬉しいけれど、どうしても恥ずかしい。
 でも快はちょっと首を振って、にこっと笑う。
「それに、そのことだけじゃない。美久の姿から俺はたくさん勇気をもらったんだ。だから」
 快の手に力がこもる。ぎゅっと。はっきりと握りしめられた。
 痛いほどではない、優しさのこもった力強さでだ。

「これからも俺のそばにいてください」

 美久の瞳をまっすぐに見つめて。
 言われたことは、快の決意と、それから美久に対する想いだった。
 ふたつが混じり合って、美久の心の中に落ちてくる。
 桜のピンク色のように優しい色のそれは、ふわっと心の中に広がっていく。体と心をあたたかくしていった。
 自然に美久の瞳もゆるんでいた。快の瞳を同じように正面から見つめ返す。
「……はい」
 手を動かした。ちょっと位置を変えて、自分からも快の手を握り返すようにする。
 快がちょっとおどろいた、という顔をしたけれど、すぐ笑みに戻った。
 きゅっと手を握られた今は、もう握られるだけではない。手をつなぎ合わせる形だった。
 そっと顔を寄せられて、美久はどきりとした。
 でもすぐに理解する。
 すっとまぶたを落として、目を閉じた。ふわりと春の気配が近づいてくる。
 優しいあたたかさを持った春の風が、ふわりとくちびるを撫でていった。


 (完)
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