水曜日は図書室で
「あのひと、うまいねぇ」
 彼が二本目のゴールを決めたとき、A組とB組の女子の間ではすっかり話題になっていた。
 見た目もカッコいいのだ、それであんな華麗なプレイを見せられれば。
 でもそこで、ピーッと笛が鳴った。
 みんなそちらを見た。このタイミングで鳴るのがわからなかったのだ。どちらかが点を取ったわけでもない。ペナルティだろうか。
 思ったけれど、どうやら違ったらしい。コートの中の男子たちがはしへ集まっていって、どうもプレイヤー交代とか、そういうものらしい。
 交代はすぐに行われて、新しくプレイに入るひとたちがコートの中に戻ってきた。 でも大半は継続してプレイするようだった。それはそうだろう、そうトータルの人数も多くない。
 でもなぜか。
 その中に、さっきの彼の姿はなかったのだ。
 見れば、コートを出て奥で待機しているほかの男子の元へ向かっているところ。
 A組、B組の女子の間では不思議そうな声がとびかった。
「え、あのひともう変わっちゃうの?」
「あんなすごいプレイしてたのに……」
「ほかにもっとうまいひとがいるのかな?」
 でも新しく入った男子は、どう見てもさっきのひとよりうまくはなかった。
 失礼なことだけど、そう思ったのは周りの女子たちも同じだったらしい。「さっきのひとのほうがすごいじゃん」と言っている。
 申し訳ないけれど、美久もそう思った。
 だからもっと謎になってしまった。あのカッコいいプレイをしていたひとが、下がってしまった理由。
 そう。なにか理由があるのだろう。
 それを知るすべなんてないし、美久は「自分にはあまり関係ないだろうなぁ」と思って、コートの中の試合模様に視線を戻してしまったのだけど。
 その中で、いつもなら率先して「もっと活躍させてよー!」と叫んでいただろう、明るいあかりが黙ってしまっていた。
 それに気付いた子は少なかっただろう。少なくとも美久は気がつかなかったし、ほかに気付いて「あかり? どうしたの?」と声をかける子もいなかったのだった。
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