水曜日は図書室で
 えっ、え?
 美久は目を白黒させた。
 だって、探した、とか、待たせて、とかちっとも心当たりがない。
 でもそれは明らかに自分に向けて言われていて……。
 その場に微妙な空気が流れた。美久がすぐに反応できずにいたことで。
 その中。
 不意に彼が思わせぶりにまたたきをした。美久はぼうっとそれを見て……やっと、はっとした。
 助けてくれようとしているのだ。このひとは。
 ヘンなひとに声をかけられた美久を。
 かぁっと胸が熱くなった。
 それは『助けてもらえそう』ということと、もうひとつは『図書室のあれだけのやりとりで自分を覚えてくれていた』ということにである。
 今度は違う意味でどきどきしてきた心臓の上で、ぎゅっとこぶしを握って、美久は勇気を振り絞った。
「う、うん、待ってた……よ」
 それは微妙にずれた答えだったかもしれないけれど、美久のその言葉ですべては完了したらしい。
 金髪の男はあからさまに「ちぇっ」という顔をした。美久に連れがいる、しかも男の連れがいると知ったことで当てが外れたのだろう。
 良かった、なんとかなりそう。
 ほっとしかけた美久だったけれど、直後、違う意味でどきんと心臓が高鳴った。
「さぁ、行こう。あ、なんか俺の彼女に用事でしたか?」
 彼女!?
 跳ねた心臓は喉の奥まで来たかと思ったほどだ。
 顔が一気に赤くなる。
「……や、別に。じゃ」
 一、二秒ほど、金髪の男と彼は見つめ合っていた……というか、険悪な空気で見合っていたけれど、すぐに金髪の男が身を引いた。さっさと店を出ていってしまう。
 彼女、って、いったい。
 どくどくと心臓が高鳴って痛いほどだ。
「……大丈夫?」
 声をかけられて、やっとはっとした。隣では彼が心配そうな目で見ていた。
「ごめんな、変な言い訳して……絡まれてると思ったもんだから」

 言い訳。
 言い訳。
 ……言い訳。

 三回ほど反すうして、美久はやっとその意味をのみ込んだ。
 今度は違う意味に胸と顔が熱くなる。
 彼女だと言って、あの男を追い払ってくれたのだ。つまりそれが『言い訳』だ。

 ……助かった。

 今度こそほっとした。とたんに膝ががくがくと震える。座り込みそうになってしまったほどだ。
 美久が震えたのを感じたのだろう、彼は「おっと」と手を伸ばして、美久の腕を掴んでくれた。それでなんとか座り込んでしまうのは阻止された。
 今度は腕に触れられたことにどきどきしてしまって、もう心臓が足りなさすぎだった。
 でも今はなぜか、嫌悪感なんてなくて。怖さもなくて。
 さっきの金髪の男には声をかけられただけでも嫌だったのに。
 美久にとっては不思議でならなかったのだけど、まだ落ちついていないうちに、彼によって「ちょっと落ちつけるところへ行こう」と、手を引いて店を連れ出されてしまったのだった。
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