水曜日は図書室で
 写真を見たとき、美久はちょっとひるんでしまったのだけど。
 写っているのはモデルさんだから当たり前だがとても綺麗な女のひとだったから。
 こんな髪型が自分に似合うのだろうかと思ってしまう。
「なるほどね。綾織さんは髪が多めのタイプみたいだから、軽くすいて、レイヤー入れる感じかしら」
「そう! 軽い感じがいいんです」
 打ち合わせは留依と杉山さんの間で進んでいく。美久はなにか言ったほうがいいのかとも思いつつ、任せていていいのかとも思うので、もじもじと過ごしてしまった。
 そして打ち合わせも済んで、杉山さんが「でははじめていきますね」と声をかけてくれる。
 シュッシュッとなにかスプレーがかけられて、髪を軽く湿らされる。
 そのスプレーがすでにいい香りがした。ほんのりとした花のような香り。
「綾織さん、髪、綺麗ですね」
「そっ、そうですか?」
 まずはとかされながら杉山さんは美久に話しかけてくれた。
「ええ。髪質もしっかりしていて、染めてないからか生き生きしてます」
 褒めてもらって嬉しくなったけれど、そのあとちょっと心が痛んだ。
「でもちょっとパサつき気味かもしれないので、シャンプーやトリートメントをしっとりタイプにすると、もっといいかもしれませんよ」
 言われたことは、多分的確だった。
 美久の使っているシャンプーは、ただのファミリーシャンプー。お父さんやお母さんの使うものと同じ、子供の頃から使っているものをそのまま使っているのだ。きっと髪を触ったプロの方にはそれがわかったのだろう。
 恥ずかしくなってしまう。高校生にもなって。おまけに同行してくれた留依はこんなにオシャレなのに。
 肩を縮めてしまいそうになったけれど、そこではっとした。

 いや、違う。
 今日は、そういう自分を一歩進めようとして来たのではないだろうか?

 それなら、落ち込んでいる場合ではない。
「そうだね。今度いいシャンプー教えてあげるよ!」
 おまけに留依も言ってくれて、美久はほっとした。
 シャンプーのこともそうだけれど、留依がそう気を回してくれることも、だ。
 とかされたあと、はさみが入れられた。

 ついに。

 美久はどきどきとしてしまう。
 眼鏡を外していたので鏡に映る姿はぼんやりとしていたけれど。
 はさみは入れられたけれど、毛先を切るのではないようだ。
 しゃきしゃき、と聞いたことのないようなはさみの音で、髪の真ん中あたりで音がしている。

 これはなにをしてるんだろう。

 美久にはよくわからなかった。
 杉山さんは、美久の髪から目を離さずに、おまけに手も止めないままで留依に話しかける。
「留依ちゃん、今日のお洋服かわいいわね」
 褒められて留依の声が明るくなった。同じく、切られているので美久もそちらを見るというわけにはいかなかったけれど。
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