水曜日は図書室で
「えっほんとですかぁー、ありがとうございます! 新しく買ったやつで……」
「ネイビーが秋らしいわよ」
 やり取りを聞いていて、また少し落ち込んでしまった。オシャレな留依のことを実感してしまう。
 留依の着てきたのは、ミニ丈のネイビーのワンピースに黒いジャケット。シックな色合いでカッコよさもある服だった。
 それに比べて。
 美久は自分の服をかえりみて、思った。
 別にボロボロしていたりはしていない。割と最近買った……というか、買ってもらったものだ。
 でもそれは量販店のただのストレートのパンツに、上はストライプのカットソー。 そこへ無地のジャケット。
 清潔感などは問題ないだろうが、オシャレとは程遠いだろう。

 お洋服とかも、変えたほうがいいのかなぁ。

 美久はぼんやりと思った。しゃきしゃきというはさみの音を聞きながら。
 杉山さんの手つきは鮮やかだった。おまけに切りながらも美久や留依にも話しかけてくれる。プロとしてすごい能力のひとであった。
 今日はカットだけなのだ、一時間もせずに終わってしまった。軽くドライヤーをかけられたあと、最後に前髪も切られた。
 美久は切った髪が目に入らないようにぎゅっと目をつぶっていたのだけれど、「さ、できましたよ」と杉山さんに言われて目を開けた。
 そして、鏡の中に見えたものに驚いてしまった。
 切り揃えられていた髪は、テレビの中で見る芸能人のような、動きのある毛先になっている。
 おまけになぜか、ふわっとして見えるのだった。杉山さんはパーマなんてしていないし、スプレーなどのものも使っていないのに、どうして。
 切り方ひとつでこんなに変わってしまうのが信じられなくて、美久はぽかんとしてしまった。
 おまけにおまけに、こちらもぱつりと切り揃えられていた前髪。ふわっと持ち上げられて、軽く横に流されていた。
 こんな素敵な……芸能人かモデルさんの髪型では。もしくはクラスで見る、かわいい女子生徒の髪型。
 美久は数秒、信じられずに黙ってしまった。
 でもその姿は、今までの自分とはまったく違っていたけれど、一番重要なのは。
 ……多分、似合っている、ことだった。
 少なくとも違和感はない。
 そしてそれはありがたいことに、ほかのひとから見ても同じだったようだ。
 「いかがでしょう」とふたつに開く大きな鏡で後ろ髪を見せてもらう美久に、留依が明るい声をあげた。
「めっちゃかわいいじゃん!」
 それはたった一言なのに、美久の心に大きな自信をくれた。
「いいね、いいね! 美久、もともとかわいいんだから絶対こういうの似合うと思ったんだよ!」
「そ、そう……かなぁ」
 驚きの次には、照れがやってきた。こんなふうに褒めてもらえるなんて。しかも盛大になんて。
 留依からもいいと思ってもらえているのだ。オシャレな留依にだ。
 美久にとってなにより嬉しいことだった。
「ええ、とってもかわいらしいです」
 杉山さんも、美久の肩から切った髪を払いながら微笑んでくれた。
 それからお会計をして、メンバーズカードというものも作ってもらって、「またいらしてくださいね」と杉山さんに送られて、二人は『サロン・チュチュ』をあとにしたのだった。
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