水曜日は図書室で
変わりはじめた世界
 一時間と少しいたので、少し疲れた。緊張もあったし。
 よって、ちょっと休憩とカフェに入ることにした。
 大きめのチェーン店のカフェに入って、飲み物を注文して席に着く。ほうっと息が出てしまった。
「楽しかったねー」
 留依は楽しさが大きかったようで、満足げにフラペチーノをすすっている。限定のりんご味。
 美久はホットティーを選んでいた。今日は少し冷えるのだ。
「あのお店、よく行ってるの? ……あ」
 言ってしまってから気付いた。約十年ぶりに帰ってきた留依が『よく来ている』ものか。
 でもそれに近くはあったらしい。
「ううん。まだ今日で三回目だよ」
 それにしては美容師さんと仲が良さそうだったけれど。
 それについては留依が教えてくれた。
「実は帰ってきてすぐに街中で『カットモデルをしてくれない?』って頼まれてさ。そのときに結構お話したから」
 カットモデルとは。
 また美久の知らない単語が出てしまった。
 その意味を教えてくれてから留依は続けた。
「で、前に髪を染め直してもらったので二回目」
「そうなんだぁ……」
 引っ越してきてまだそれほど長くないのに、留依はずいぶんあちこちへ行っているようだ。
 学校と図書室と……そんなものばかりの世界の自分より、ずっといろいろ知っているのはそのためだろう。
「私も次は全体を染めようかな。冬になるから赤系とか濃い色もかわいいかも」
「季節によって色があるの……?」
「いや、特に決まりはないけど。寒いからあったかみのある色が人気があるんだよ」
 留依はやはりあれこれ教えてくれるのだった。そのうちに、さっきのシャンプーも教えてくれた。
 スマホで見たそれはドラッグストアで売っているものではあったけれど、パッケージが『ファミリータイプ』とはまるっきり違っていた。
 ピンク色のボトルにリボンがあしらわれていて、見るからに若い女の子向け。
「安めだけど、値段の割に優秀なんだよ。コスメサイトでもプチプラ部門の二位なんだ。おすすめ!」
 そのコスメサイトというのも見せてもらった。
 シャンプーのほかにもいろいろとメイク用品が載っているけれど、美久にはその半分もわからなかった。
 口紅とか頬紅はわかるけれど、それ自体がずいぶんかわいらしい見た目で、美久のイメージしていたものとはだいぶ違った。
「せっかく髪をかわいくしたんだから、ちょっとずつ変えてくのはどうかなぁ」
 最後に留依が言ってくれたこと。
 それは美久が、今日やってもらったこのかわいらしい髪型を見てから、なんとなく思っていたことであった。
 髪型が変わっただけなのに、不思議なことだ。自分ががらりと変わってしまったような気がする。
 実際にはまだ髪型しか変わっていないのに。
 多分気持ちが少し変化したのだろう。そしてその変化はきっと、良いものなのだ。
「……うん。ちょっとずつ、見てみよう、かな」
 言う言葉はまだもじもじとしてしまう。
 自分に似合うかわからないし、照れなどもある。
 けれど。
 以前に比べたら、ずいぶん前に近いところを向けるようになった、と感じられるような言葉になったのだ。
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