水曜日は図書室で
親友との再会
 秋も深まり、そろそろ寒さも感じられるようになってきた十月の終わり。
 二年生も半分が終わった。
 美久としてはなにも変わらなかったけれど。
 文芸部は特にコンテストなどがあるわけではない。
 そもそも活動自体が活発ではないのだ。
 本を読む。お互いに勧め合う。そこから感想文や推薦文を書いたりする。
 活動がさかんな文芸部だったならば、部誌を作ったりそれに載せるものを書いたりということもあったかもしれないけれど、十色高校文芸部はそういうものはなかった。
 昔はあったようで、部室の棚の奥には過去の部誌だというものがしまってある。
 美久も興味を覚えてちょっと読んでみたことがある。
 それは確かにおもしろかった。当時の活動の様子や、当時はやっていた本や小説のことがわかって興味をひかれる。
 けれどそれだけだった。今年は作ってみることにしようよ! と提案するなんてもってのほかである。
 そんな部活の活動もいつも通りだったことも手伝って、美久の意識はもっぱら来週の中間テストだったのだけど。
 ある日、中間テストなど吹っ飛ぶような衝撃的な事件が起こったのだった。


「えー、今日は転校生を紹介する」
 担任の桜木(さくらぎ)先生、若い男性の先生……が、朝のホームルームで言ったこと。クラスは一気にざわめいた。
 転校生。
 なかなかあるものではない。
 美久もちょっと驚いた。小学校、中学校ではあったけれど、高校生になって転校生というのは初めてであった。
 でも、そんな『ちょっとの驚き』では済まなかったのである。
「さ、入ってきて」
 ドアのほうへ声をかけた桜木先生。「失礼します!」と聞こえた、大きくて明るい声に、美久は何故かなつかしいような感覚を覚えた。
 知っている声なのだろうか、でもちょっと違うような……。
 けれどそれがなんなのか理解するより先。入ってきたのは活発そうな女子であった。
 さっさと教壇へ歩いて行って、先生の隣に立つ。
 礼儀正しく、手をスカートの前で重ねて、にこにことしている。
 既に十色高校の制服を着ていたけれど、その着こなしはなかなかオシャレであった。
 スカートはまだ様子見ということなのか、膝より少し上くらい。
 もう秋なのだから上にはジャケットを着ているのだけど、その中にはカーディガンなのかベストなのかを着ていた。色はビビッドピンクである。
 色は派手であるけれど、ジャケットを着ているのだからちらっとしか見えない。よって、派手だとか校則違反だとか怒られることもないだろう。
 はぁ、と美久はその子に見入ってしまった。
 大体、制服の着こなし以上に、彼女は綺麗だった。
 茶色の髪は短めで、毛先がふわっとしていてやわらかな印象。アイロンかなにかで巻いているのかもしれないが、美久はもちろんわからない。
 それに大きくてくりっとした目が、親しみを感じさせるような印象で。
 クラスのみんなだって、きっと彼女に見入ってしまっただろう。しばらく教室内は静かだった。
 その中で、彼女は桜木先生に促されて黒板に向き合った。名前を書くのだ。
 カッカッとチョークの小気味いい音がする。
 入ってきた様子も、今、黒板に名前を書く様子も、はっきり伝えてきた。
 彼女がとても明るくて活発なタイプだということを。
 しかし書かれた名前。それを見て、美久は思わず、あっというところだった。
 だって、その名前。
「渚 留依(なぎさ るい)といいます! 家の引っ越しで十年ぶりくらいにこの町に帰ってきました! だからもしかしたら知ってるひともいるかもしれません。よろしくお願い……」
 留依と名乗った彼女はにこにこと自己紹介をしていったけれど、途中でその声は途切れた。目が丸くなる。
 その理由。美久はすぐにわかった。
 だって、そのくりっとした丸い瞳は、自分をまっすぐに見ていたのだから。
「美久!? 美久……だよね!?」
 そのとおり、留依は目を丸くしたまま口にした。信じられない、という様子だったけれど、しっかり美久を見つめていた。
< 3 / 120 >

この作品をシェア

pagetop