水曜日は図書室で
 この髪型は翌日の月曜日の学校でも好評だった。
 似合わないと思われたらどうしよう、ヘンとか、もしくは綾織さんには向いてないとか……。
 それでも登校前にはネガティブになってしまっていたのだけど、おそるおそる入った教室。
 留依は今日、美久より早く登校していて、「お、おはよう……」と入っていった美久を明るい顔で迎えてくれた。
「おはよ、美久! いいね、制服にも合うねぇ!」
 留依の声が大きかったからか、クラスでもう登校していた子たちがこちらを見た。
 視線を集めてしまったことに恥ずかしくなったけれど、やってきたのは「かわいいじゃん!」という女子の声だった。
「綾織さん、イメージ変わるねぇ!」
 近くの席の子たちが近付いてきて、褒めてくれる。美久は心底ほっとした。
「あ、ありがとう……」
 もじもじと言ってしまったけれど、嬉しすぎる受け入れだった。
「どこのサロンに行ったの? いいとこ?」
「る、留依ちゃんが通ってるところに……」
 美久の言葉に、女子たちは明るい声をあげた。次は留依に視線がいく。
「えー! いいなぁ! 渚さん、私にも教えてよ」
「私もー」
 留依だけでなく美久も囲まれてしまう。
 あたふたとしつつも、美久は確かに嬉しかった。
 そして楽しかった、とまで感じてしまったのだ。
 不思議だ、髪型を変えただけなのに。おまけに教室に入る前は「似合わないと言われたら」なんてびくびくしてしまっていたのに。
 一歩踏み出せば、いいことがたくさん待っていた。
 美久の胸がじんと熱くなる。
「なかなかいーじゃん」
 おまけにクラスの中心のオシャレな子たちまで褒めてくれて、美久はもっと嬉しくなった。
 ほんの少しでも、自分のことを、オシャレな子に認めて、もらえるなんて。
 ただ、ひとつだけ。
「そだね。いーんじゃない」
 一人だけ声のトーンが少し低い子がいた。
 それはあかりだ。今日もかわいらしく髪を巻いている。
 美久はそちらに視線をやって、明るく弾んでいた心がちょっとだけ低くなってしまうのを感じた。
 あかりのテンションがあまり高くない理由は思い当たる気がしたから。
 あのとき。
 街中で快と会って出かけた日。
 帰りの駅であかりに会った。そのときの態度と同じなのだ。

 やっぱり、久保田くんが彼氏なのかな。
 だからあのときのこと、気にしてるのかもしれない。

 美久は再び罪悪感を覚えてしまったけれど、今、ここで謝ったりするのもおかしいし、唐突だし、大体間違っているのかもしれないし、そもそも悪いことをしたわけでもない。取ってしまったわけでもあるまいに。
 なので今はなにも言えなかった。
 そのうちにほかの子のほうが「これ、どうカットしてもらったの?」ともっと詳しく聞いてくれて、留依の助けを借りつつ説明しはじめて。
 そちらへ美久の意識はシフトしていき、元通り明るい気持ちになってくれた。
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