水曜日は図書室で
「そうなんだね」
 単なる相づちになってしまったけれど、快は突っ込んで聞かれなかったことに、むしろほっとしたようだった。
「まぁバスケは好きだからさ。綾織さんは部活、何曜日にあるの?」
 そのまま話題は美久のことに移っていった。美久はそれに答えて、快がまた聞いてくれて、そして……と話は続いていく。
 話しながら、美久はもうひとつのことに気付いた。
 合同体育のときのことだ。
 快は最初、コートに入って華麗なプレイを見せていた。
 けれどすぐにチェンジしてしまったのだ。あれだけのプレイだったのに。
 それも事情が絡んでいることは、どうやら間違いなさそうであった。
 でもそれならバスケができないとか、できなくなったとか、そういうわけではないだろうに。
 謎は深まってしまった。
 やはり今、聞くことではなかったけれど。
 あちこち見て回って、美久は初めて見つけた作家の本を借りることに決めた。国語の授業で一本だけ短編を読む機会があって、それがおもしろかったので一冊読んでみることにしたのだ。
 快は先程の三巻を手にしていたので、カウンターでお互い手続きをして借りた。
 そろそろ帰ろうかと思う。だいぶ長々と過ごしてしまった。下校時間も近付きそうだ。
 今日は楽しかった、と美久は思う。
 新しい本を見つけられたのも、快に会えたのも。
 一番は、髪型を変えたのを褒めてもらえたこと、だけど。
 すごく嬉しかった。
 男の子に容姿を褒められたことなど、美久は初めてだったのだ。
「そろそろ帰る?」
 快に言われたときはちょっと惜しくなってしまうくらいだった。
「そうだね、下校時間になりそうだし帰ろうかな」
 でもまた会えるのだろう。図書室に来たときいつも会えるわけでないのは残念だけど……。
 美久の思考を読んだように、快がちょっと唐突なことを言った。
「もし良ければ、図書室でまた会わないか?」
「……え?」
 美久はきょとんとしてしまう。
 また会わないか、とは。

 待ち合わせ、とか?

 思ってどきりとした美久であったけれど、それはまだ早かった。
「もし良ければ、だけどさ。週に一回とか……」
 快はどこか決まりの悪そうな顔をしていた。その表情の理由が美久にはよくわからない。意外過ぎてぽかんとするばかりだった。
< 33 / 120 >

この作品をシェア

pagetop