水曜日は図書室で
「綾織さんといると新しい本に触れられるし、それについて話せて、すごく参考になるなって思うんだ」
 今度ははっきりわかった。美久の心臓がどくんと跳ねて、また顔が熱くなってしまう。
 でも今度のものは髪を褒められたときとは違う意味で、だった。
 会いたい、と言われているのだ。
 これは夢だろうか。
 こんな優しい男の子が『自分と過ごしたい』と言ってくれているのだ。いや、『一緒にいたい』とはっきり言われてはいないが、実際そういうことだろう。そういう気持ちがなければこんなこと、言うものか。
「い、いいなら……」
 返事をする声はかすかになった、かつ、非常にあいまいなものになってしまった。
 なにが『いいなら』だというのか。心の中の自分が、表の自分にツッコミを入れてしまう。

 そうだ、ダメだ、こんなあいまいじゃ。
 もっとはっきり。

 ごくっと唾を飲んだ。はっきり言うのは恥ずかしい、けれど。
 快が誘ってくれているのだから、はっきり返事をしなければ。
「く、久保田くんが、……いいなら」
 言いなおした。今度はもう少しはわかりやすかっただろう。
 そしてこれはちゃんと伝わってくれたらしい。快はほっとしたように表情を崩した。
 「良かった」と言ってくれる。
「じゃあ……水曜日は俺、部活が休みなんだ。綾織さんはどうかな」
 具体的な話になってしまう。胸はどきどきと騒いで痛くなりそうだ。
 なんとか思考を巡らせて美久は「水曜日は空いてるよ」と言った。部活の予定なんて、頭に入っていて当たり前のことすら、考えないと思い出せないようなことだった気がした。
「じゃあ、とりあえず来週の水曜日の放課後。どうかな」
「わ、わかった」
 そのように。
 約束はあっさりと成立してしまった。
 そのあとは解散となった。図書室の出口まで一緒に行って、快は「帰る前にちょっと職員室に寄る用事があるから」と言ったので、そこで解散だ。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
 にこっと笑って、言ってくれた快。
 美久はまだ夢を見ているのでないかと思いつつ、「うん」と頷き、そしてためらったのだけど、付け加えた。
「私も楽しかった……よ」
 久しぶりにもじもじとした言葉になってしまったけれど、言って良かったらしい。快は目元を緩めて「そりゃ嬉しい」と言ってくれたから。
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