水曜日は図書室で
「うん。青柳(あおやぎ)くんなんだけどね」
 同じクラスなのだからもちろん知っている。スポーツが得意で、クラスの男子の中でも明るくて友達も多い、結構カッコいいひとだ。
「男子テニス部じゃん。だからそれで結構話すことがあって」
 留依はあれからテニス部に入っていた。もう所属して一ヵ月にはなるだろう。
 けれど裏を返せばたった一ヵ月、である。この学校にいる時間だって、一ヵ月ともう少しなのに。
 それで告白とかそういう話が出てくるのがすごすぎる、と美久は感嘆してしまった。
「そ、それで……」
 自分がごく、と唾を飲んでしまって聞いた美久。
 留依はちょっと黙った。

 え、断ったのかな。
 なんか感触良さそうな話だったけど。

 一瞬思ってしまった美久だったけれど、当たらずとも遠からずだった。
「テスト終わったら返事するって。言ったよ」
 つまり保留、ということだ。美久は喜んであげたらいいのか、そうでないのかよくわからなくなった。
「テストに集中したかったからさ」
 モンブランをすくいながら言った留依。
 美久はそれに余計に感心してしまった。
 告白なんかされて、もし気になっていた相手ならすぐに「はい」と言ってもおかしくないところだったのに、テストのこともおろそかにしない留依。
 なんと立派な女の子であることだろう。
 でもそれはある意味、留依が『慣れているから』できたことかもしれなかった。
 今は彼氏はいないけれど、告白されたことはあるし、中学校のときちょっとだけ付き合っていたひとはいた、と前に聞いていた。
 そのくらいには恋愛に関する経験がある留依だからできた判断だったかもしれなかった。
 自分にはできない、と美久は思う。
 そんなことをされたら、……告白なんてされたら……気が動転してテストどころではなくなっただろう。いや、そんなこと自分には起こらないけれど。美久は自分に言い聞かせた。
「でも、まぁ、うん……はい、って答えるかな」
 言った留依はちょっと恥ずかしげだったけれど、確かに嬉しそうだった。
 美久はその表情と様子にほっとする。
「そっか。うまくいくといいね」
「終わるまで、向こうの気が変わらなければいいけどね」
「そんなことはないと思うけど……」
 穏やかな話が続いたけれど、そのあと美久はもう一度モンブランがのどに詰まりそうになってしまう気持ちを味わった。
「美久は? 好きなひととかいないの?」
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