水曜日は図書室で
 定番の話題ではあるけれど、今まで留依としたことはなかった。
 正しくは、美久について聞かれたことはなかった。留依のことなら前述のとおり、聞いたことがあったのだから。
 そしてモンブランがのどに詰まりそうになったのは、もうひとつ違う理由があった。
 それは、そんな質問をされたときに、一瞬だけ頭に浮かんでしまったひとがいたからである。

 いやいやいや、そんなんじゃないから。
 私にとって親しい男子なんて、あのひとくらいだから浮かんじゃっただけだから。
 そんなんじゃないから。

 何回も繰り返したが、頭の中でぐるぐるしている様子は留依になにかしらを伝えてしまったらしい。楽しそうに笑われた。
「いるんだね。誰、誰?」
「い、いや、いないよ!」
 あわあわと否定するけれど、許してはもらえなかった。
「いないならすぐに『いないよ』って言わない? 気になってるくらいはあるんじゃないの?」
 戸惑ってしまったのが命取りだったらしい。留依のツッコミは的確だった。
 美久は観念することになる。
「す、好き、とかはないけど……最近話すひとはいる、なぁって……」
 こんな話をするのは初めてだった。あいまいな話しかできていないのに、顔がなぜだか熱くなってしまう。
 紅茶のカップを取り上げてひとくち飲んだ。ずいぶんぬるくなってしまっていて、ちょっと渋みも混ざっていた。
 そこから図書室で何回か会ったことを話して、合同体育のときにバスケで活躍していたひとだと説明すれば、留依も「ああ、あのひとかぁ。久保田くんって言うんだね」と思い当たってくれたらしい。
 名前を言われるのは恥ずかしかったけれど。好きとかではないけれど、こんな話題のときに話しているなんて。
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