水曜日は図書室で
「たまにA組に来てるよね」
 留依がそんなことに気付いていたのは流石である。美久はここ最近、それこそ快と知り合うまで、訪ねてきていたことになんてちっとも気付かなかったのに。
 留依は本当に周りのひとのことをよく見ているのだと思い知らされた。
「桐生さんと話してるみたいだけど」
 もちろん、快がどうしてA組に来ているかという理由も知っているようだ。的確なことを言ってきた。
 桐生さん、つまり、あかりのこと。
 そう、快はどうやらあかりに会いにA組に来ていることが多いようなのだ。ほかの男子を呼ぶこともあるけれど。
 気付いたときに美久は、なんだか微妙な気持ちになってしまったものだ。
 やっぱり彼氏なのかな、と思ってしまったせいで。
「付き合ってるのかな。親しそうだけどね」
「そう、かもしれない……ね」
 留依に言われたことには胸が痛んだ。
 A組に会いに来ていること以外にも、その可能性があるらしいことにはいくつか遭遇している。
 初めて快と街中であったとき、その帰りにあかりに出会ったこと。あのときあかりの視線はあまりおもしろそうではなかったし、そのあと当たり前のように連れ立って帰っていた。
 それに、髪型を変えたときのように、あかりは最近美久のことを『あまり気に入らない』というような目で見てくるのだ。表だって責められたり意地悪をされたりはないけれど。
 快と付き合っているのなら、快に近付く美久のことはおもしろく思わなくて当然だろう。
 好きとかそうでないとかは置いておいても、親しくしている快のことだ。
 こんな状況なら、そりゃあ胸も痛む。
 美久の内心は察されたのだろう。留依はちょっと笑ってみせてくれた。
「決まったわけじゃないじゃん。単に友達とかかもしれないよ」
 その可能性は確かにある。ただの友達なのかもしれないのだ。
 もしくは恋の気持ちがあっても片想いとか……そういうものかもしれない。
 それなら快と親しくしたって悪くはないだろうし。
「だから頑張ってみなよ」
 ぽん、と肩を叩かれて、美久はまたむせそうな思いをすることになる。
「頑張るって!? や、そうじゃなくて、だから違うってば……」
 違うと言っているのに留依はやはりにこにことしていて。
「気になってるってことは、興味はあるってことじゃん」
「だから……」
 美久がいくら言いつのっても、留依は方向を変えないし、それに留依の言う通りなのである。
 気になる気持ち。
 それは確かにあるのだから。


 久保田くんのこと。
 どう思ってるんだろう。
 話していたり会っていて楽しいのは確かだけど……。
 
 快のこと。
 美久が改めて考えるようになってしまった、きっかけとなった日になった。
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