水曜日は図書室で
「……ありがとう」
嬉しさのあまり、涙でもにじみそうになった。なんとかこらえて、美久は言う。お礼の言葉を。
不意に快が手を伸ばした。机の上、美久の前。置いてあったメモに触れる。
とても優しい手つきだった。
「これ、ちょっと読んで、あ、まずい、盗み見みたいだってやめちゃったんだけど。すごく気持ちがこめられているのはわかった。だから、知りたかったんだ。誰が書いたんだろうって」
くすぐったい言葉だった。
でも、嬉しい。
美久はまた小さな声で「ありがとう」と言った。
そのあとのこと。美久はこれもなんとなく予想していた、というか、こうなったらいいなと思っていた。
その通りのことを快は言ってくれる。
「これ、完成したら読ませてくれないか?」
こうなったらいいと思いつつ、実際に言ってもらえたら嬉しさに心が騒いだ。どくどくと心臓が高鳴って仕方がない。
嬉しいけれど、やっぱり恥ずかしいことではある。自分の書いたものなどやはり。
「そんな、おもしろく書けるかわからないよ」
美久の弱気が出てしまったけれど、快はあっさりとそれを否定してくれる。
「そんなことあるもんか。それに、完璧じゃなくたっていい。綾織さんの作り出すものを読んでみたい」
そう言われれば答えなんて決まっていた。
胸と顔を熱くしながら、美久はなんとか頷いた。
「それで、いいなら……うん」
美久の受け入れる言葉にほっとしたらしい。快が微笑んでくれる気配がした。恥ずかしくて顔は見られなかったけれど。
「さんきゅ。楽しみだ」
それで、いつが締切なのかとか具体的な話に移った。
話しながら、美久は夢でも見ているのではないかと思った。
今まで秘密に近く抱えてきたこと。まさか快に話すことになるとは思わなかった。
それを知られてしまったのはハプニングに近かったかもしれないけれど、勇気を出して話してみれば、とても嬉しい言葉が返ってきた。
美久のことを肯定して、励ましてくれる、優しい言葉。
まるで熱でも出たように、胸が熱い。
その日の集まりはそれで終わってしまった。下校時間が近付いて、「そろそろ帰ろう」ということになり、今度は昇降口で別れた。
快と別れて一人で帰る間。
なんだか足元がふわふわしている気がした。
ほぼ一人で書いていたのに。これからは多分、違うのだろう。
読んでくれるひとができたのだ。読者だ。
まるで小説家の卵ではないか。
そんなちょっと図々しいと自分では思ってしまう思考すら浮かんでしまう。
でもそれは嫌な感覚ではなくて。
ひっそり抱えていた、コンテストへの気持ち。それが一気に膨らんで、美久の胸に勇気をくれた。
完成させるのだ。
できが良くなくたってかまわない。
完成させることがスタートなのだから。
でもできれば納得のいくものを書きたいし、完成させたいし、そして。
……快にちょっとでも「おもしろかったよ」と言ってもらえたら、とてもとても嬉しいだろう。
嬉しさのあまり、涙でもにじみそうになった。なんとかこらえて、美久は言う。お礼の言葉を。
不意に快が手を伸ばした。机の上、美久の前。置いてあったメモに触れる。
とても優しい手つきだった。
「これ、ちょっと読んで、あ、まずい、盗み見みたいだってやめちゃったんだけど。すごく気持ちがこめられているのはわかった。だから、知りたかったんだ。誰が書いたんだろうって」
くすぐったい言葉だった。
でも、嬉しい。
美久はまた小さな声で「ありがとう」と言った。
そのあとのこと。美久はこれもなんとなく予想していた、というか、こうなったらいいなと思っていた。
その通りのことを快は言ってくれる。
「これ、完成したら読ませてくれないか?」
こうなったらいいと思いつつ、実際に言ってもらえたら嬉しさに心が騒いだ。どくどくと心臓が高鳴って仕方がない。
嬉しいけれど、やっぱり恥ずかしいことではある。自分の書いたものなどやはり。
「そんな、おもしろく書けるかわからないよ」
美久の弱気が出てしまったけれど、快はあっさりとそれを否定してくれる。
「そんなことあるもんか。それに、完璧じゃなくたっていい。綾織さんの作り出すものを読んでみたい」
そう言われれば答えなんて決まっていた。
胸と顔を熱くしながら、美久はなんとか頷いた。
「それで、いいなら……うん」
美久の受け入れる言葉にほっとしたらしい。快が微笑んでくれる気配がした。恥ずかしくて顔は見られなかったけれど。
「さんきゅ。楽しみだ」
それで、いつが締切なのかとか具体的な話に移った。
話しながら、美久は夢でも見ているのではないかと思った。
今まで秘密に近く抱えてきたこと。まさか快に話すことになるとは思わなかった。
それを知られてしまったのはハプニングに近かったかもしれないけれど、勇気を出して話してみれば、とても嬉しい言葉が返ってきた。
美久のことを肯定して、励ましてくれる、優しい言葉。
まるで熱でも出たように、胸が熱い。
その日の集まりはそれで終わってしまった。下校時間が近付いて、「そろそろ帰ろう」ということになり、今度は昇降口で別れた。
快と別れて一人で帰る間。
なんだか足元がふわふわしている気がした。
ほぼ一人で書いていたのに。これからは多分、違うのだろう。
読んでくれるひとができたのだ。読者だ。
まるで小説家の卵ではないか。
そんなちょっと図々しいと自分では思ってしまう思考すら浮かんでしまう。
でもそれは嫌な感覚ではなくて。
ひっそり抱えていた、コンテストへの気持ち。それが一気に膨らんで、美久の胸に勇気をくれた。
完成させるのだ。
できが良くなくたってかまわない。
完成させることがスタートなのだから。
でもできれば納得のいくものを書きたいし、完成させたいし、そして。
……快にちょっとでも「おもしろかったよ」と言ってもらえたら、とてもとても嬉しいだろう。