水曜日は図書室で
 眼鏡という、ちょっと重たくて世界をさえぎるものもない。レンズがくもって困ることもないだろう。
 おまけに痛くなんてない。目にしっかりくっついてくれていて、まだちょっと違和感はあるけれど、すぐに慣れてしまうくらいのものだと思った。
「……すごく、きれいに見えます」
 美久の声が感嘆だったからだろう。看護師のお姉さんはちょっと笑った。
「世界が変わって見えますよね。とてもきれいに見えていたら、嬉しいです」

 世界が変わる。

 美久にとっては本当にその通りだった。
 それは見えるものだけがではない。
 眼鏡からコンタクトに変えることで、美久の見た目は大きく変わるだろう。
 かわいくなっているといい、と思って、ちょっと恥ずかしくなったけれど、実際それが目的でもある。
 留依ほどオシャレには無理かもしれない。
 でも今まで「別にこれでいいや」と思って適当にしていたものはもうやめる。
 自分から「こうしてみよう」と選ぶのだ。それであればもちろん、かわいいものを選びたい。
 今はまだ留依に引っ張ってもらったり、選ぶのを手伝ってもらったりしている。
 でもこれからは自分で変わっていけるように、進んでいけるようにもなりたいのだ。
 そのあと外し方も教えてもらって、いくつか違う製品も試して使い心地を比較して……。
 ひとつのものに決めて、今日はこのまま帰ることになった。
 この姿を留依に見せるのは緊張してしまったのだけど、眼科からコンタクト屋さんに戻ってきた美久を見て、留依はぱぁっと顔を明るくしてくれる。
「すっごい! かわいい!」
 留依ならほめてくれると思っていたけれど、実際に言われればほっとしてしまったし、嬉しさが胸の底から湧き上がってきた。
「いいね、すっきりして見えるし、髪型も引き立てられてると思う!」
 留依は次々に褒めてくれる。その言葉は全部美久に勇気をくれるようなものなのだ。
「ありがとう」
 美久はお礼を言ったのだけど、お礼を言うべきはもうひとつ。
「連れてきてくれて、ありがとう」
 美久のもうひとつのお礼には、留依は違う意味でだろう、にこっと笑った。
「どういたしまして」
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