水曜日は図書室で
「すごいいいじゃん!」
 でもすぐに笑みに変わってくれる。同じように褒めてくれた。
 いや、褒める以上にそれは『肯定』だった。
 新しいことに踏み出した美久を、認めてくれる言葉だ。とてもあたたかくて優しい言葉。
 言葉だけではなく、笑みになった表情も、明るい声も、すべてが美久を認めてくれたのだと示していた。
「あ、ありがとう……」
 期待はしていたけれど、実際にそう言ってもらえれば髪型のときと同じようにやっぱり恥ずかしくて、ちょっとどもってしまった。でも、自分から言えたし、お礼も言えた。その嬉しさや誇らしさからも胸が熱くなってくる。
「え? A組の綾織さん? あれ、ずいぶん雰囲気違うなぁ」
「眼鏡やめたんだ?」
「髪型も変えた?」
 そのやりとりから、近くの男子も美久を見つめ出した。これほど多くの男子に近く接することはあまりないので、美久はあわあわとしてしまう。
 けれど、嫌な気持ちではなかった。
「かわいいでしょ! 私がプロデュースしたんだよ!」
 美久の肩を抱いて、誇らしげに言ったのは留依。ちょっと茶化すようなその言い方に、あはは、とその場にあたたかな笑いが溢れた。
「前よりずっといいじゃん」
 一人の男子が言ったのは、何気ない言葉だっただろう。
 そして、美久もそれをただそのまま聞いたのだけど、そのあとのことに心臓が飛び出るかと思った。
「ああ、かわいいよ」
 そう言ってくれたのは快だったのだから。おまけに美久のことをまっすぐに見つめてくれていた。
 一瞬、時間がとまったかのように感じてしまった。見つめた先の快の瞳は穏やかで、優しくて……心からそう言ってくれているのが伝わってくる。
 その瞬間、周りにも廊下にもたくさんひとはいたけれど、確かにこの世界には美久と快しかいなかったのだ。
「……え、あ、……ありが、とう……」

 かわいい。
 かわいい。
 ……かわいい!?

 三回ほど反すうして、やっと理解した。
 これは「似合ってる」とか「いいじゃん」より、もっと上のことだ。特別な言葉だ。
 それを自分に向けてくれた。かわいいと評してくれた。

 ……嬉しい。

 かぁっと胸が熱くなる。発火しそうだ。顔にもきっと出たのだろう。
 快の横にいた男子が快を小突いた。
「なんだー、かわいいなんて、綾織さんに気があるのかよ」
「え、そうなの? 久保田、告白か?」
 にやにやとした空気がその場に広がる。快をからかうような空気が。
 でも嫌なものではなくて。どこかほの甘いような空気であった。
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