水曜日は図書室で
 美久が反撃するようなことを言うとは思わなかったのだろう。あかりの目が丸くなった。
 以前の美久ならおびえて「ごめんなさい、ごめんなさい」と言っていたから、その通りになると思っていたのだろう。美久を捕まえて、文句をつけはじめたときと同じだ。自分のほうが力があって、上だと思っていたのだ。
 その美久が噛みつくようなことを言うなんて、という顔をしていた。
 でもその顔はすぐにしかめられる。不快だ、という気持ちが顔いっぱいに広がる。
「そんなこと……。少なくとも私はあなたよりは快のことわかってるわよ! あなたに言われなくたってわかるんだから!」
 その理屈は無理があった。けれどあかりはそう言うしかなかったのだろう。
 引くつもりも、美久を追い払う気もなかっただろうから。
 でも美久だって、逃げるつもりはない。お腹の下に力を込めて、逃げたい気持ちを必死にこらえた。
 しばらく、あかりと美久はにらみ合っているという状態になる。沈黙が落ちた。
 周りの子が戸惑っているのが感じられた。まだ優位に立っている、という気持ちも伝わってきたけれど。
 なにしろ美久は一人きりで、あちらは複数なのだ。余裕があって当然。
 数秒後。不意にあかりが動いた。
 殴られるのか。
 美久はさすがにびくりと体を震わせた。
 けれどあかりのしたことは違っていた。
 美久の腕を掴む。その力は強く、美久は思わずうめいた。
 そんな美久の腕を、あかりは無理やり引っ張った。どこかへ連れて行く、というしぐさを見せる。

 なに、いったい、どこへ。

 思ったけれど、「やめて!」と振り払うことは、今度はできなかった。腕を握られたことで恐怖が生まれてしまったのだ。
「わからないなら、ここで思い知ってもらうから」
 連れられたのは、そばにあったドアだった。

 なに、ここ。

 美久は知らないところだった。あかりのしようとしていることを知ったらしく、一人の子がそのドアを開けた。
 中を見て、美久はそこがなにかを知った。
 なにか、学校の整備に使う用具が入っている倉庫のようなところだ。
 そしてどうされようとしているのかも知った。

 ……閉じ込められようとしているのだ。
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